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【医学講座】サッカーと新型コロナウイルス感染症

2021.07.02

医学講座として、新型コロナウイルス感染症とサッカーについて、本協会スポーツ医学島村委員長の執筆です。ぜひご一読ください。

 

1.はじめに

 2019年の末に中国の武漢から発生した新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナと略)は、2020年2月、中国の旧暦の正月である春節期間に多くの人が世界中を動いたことを契機に瞬く間に全世界に広がりました。以来、何度かの感染の大波を経験しつつ、現在もいわゆるコロナ禍が続いています。

 その間、感染拡大を防止する観点からサッカーの練習や試合が禁止されたりして、いまやサッカーファミリーにとっても受難の時代と言えるでしょう。大事な大会が中止になり、悔しい思いをされた方も多かったのではないかと察します。

一方、感染すると重い肺炎になり死に至ることもある新型コロナですが、最近までに様々なことが分かってきました。また、新型コロナウイルスに対するワクチン接種も始まり、少しずつ良い方へ向かっている感があります。

 今回は、これまでに新型コロナについて分かってきたことを整理しながら、サッカーファミリーの皆さんにとってお役に立てるような情報を簡潔にお届けしたいと思います。

 

2.感染経路

 細菌やウイルスが人から人に感染していく道筋のことを感染経路と言います。一般的な感染経路としては以下の3つが重要です。

①接触感染:感染者に直接触れたり、または病原体で汚染されたドアノブや医療器具を介して間接的に触れたりすることで感染すること。

②飛沫(ひまつ)感染:感染者が会話や咳・くしゃみをした際にその口から飛び散る小さいしぶき(飛沫という)を吸い込むことによって感染すること。飛沫は一定の距離以上には広がらず、次第に落下していく。

③空気感染:感染者から発せられ空気中を漂う微細な粒子(飛沫より小さい)を吸い込むことによって感染すること。

 新型コロナウイルスの感染経路は、当初は①の接触感染が重要視されていましたが、多くの研究により、②と③の方が重要であることが分かってきました1)。更に、換気環境や湿度などの条件次第では飛沫も一定時間以上空気中を漂うことが分かってきました2)

 

3.感染防止対策

 先に述べたように、新型コロナウイルスの感染経路は飛沫・空気感染が主ですので、空気中に漂う新型コロナウイルスを含む飛沫やより細かい粒子を吸い込まないような対策がより重要になります。仙台市のホームページにも、そのような感染のリスクを想定した注意喚起の図が掲示されています(図1)。

 

図1.感染リスクが高まる「5つの場面」 (仙台市HPより)

 一時は飛沫が周囲のモノに付着して、それを触ることにより感染が広がる接触感染が重要視されていました。ドアノブやエレベーターのボタンなどから「ウイルスが検出された」とニュースになり、紙などの表面に付いたウイルスが何日も生きているという実験結果も発表されました。

 しかし、ドアノブやエレベーターのボタンから検出されたものは、もはや感染能力を無くしたウイルスの破片である可能性が指摘され、「何日もウイルスは生きている」という実験も「大量のウイルスを実験室内の良好な環境」のもとで培養した結果であり、果たして通常の生活環境でその辺に付着したウイルスが感染をひきおこすかについては疑問が投げかけられています3)

 もちろん、手洗いは感染対策の基本です。新型コロナウイルスというよりは、その他の病原体を体内に取り込まないためにも手洗い慣行は続けた方がいいでしょう。ヒトが手で触れそうな部位を消毒することも、接触感染を主なルートとする様々な細菌やウイルス対策に有効です。

ただし、新型コロナウイルスの感染経路は接触感染よりは飛沫・空気感染が主であることを考えると、新型コロナ対策として神経質に1日に何度も隅から隅まで消毒する必要はないと考えられます1)

 ということで、新型コロナウイルスの感染防止対策としては、ありきたりですが、以下の3点に尽きると思われます。

・不織(ふしょく)(ふ)マスクの適切な着用

新型コロナの感染者が適切に不織布マスクを付けていた場合、周りの人に感染させる可能性は、不織布マスクを適切に付けている人に対してはかなり低いと言われています。しかし、ウレタンマスクや布マスクの場合は不織布に比べて感染割合がかなり高くなることが知られています4)。不織布マスクを使っていても、鼻が出ているなど適切でない付け方をしていたら意味がありません。従って、基本中の基本は不織布マスクの適切な着用と言えます。また、マスクを外す食事時にこそ感染が広がりやすくなります。レストランのテーブルにアクリル板が置かれたり、「黙食」が奨励されたりしているのもそのためです。

「いつまでマスクしてなきゃいけないの?」という問いが聞かれますが、次項で述べる新型コロナウイルスに対するワクチン接種を大多数の方が受ければ、新型コロナの感染者数は激減するでしょう。その頃合いを見て「マスク解除」が宣言されるかもしれませんが、残念ながらまだまだ先のようです。

なお、空気中に浮遊するウイルスを破壊するために消毒薬を噴霧する方法が一部で用いられていますが、薬剤の噴霧は人体への悪影響の方が大きいという研究結果も出ており、消毒薬の噴霧は行わない方がよいようです。

・いわゆる三密(密閉・密集・密接)の回避

 感染のリスクを高める状態として密閉・密集・密接のいわゆる三密が挙げられ、「三密の回避」が提唱されています。密閉された空間では飛沫や小粒子が空気中に漂いやすくなり、感染の機会が増えますし、大勢の人がたくさん集まれば、やはり飛沫や小粒子が増えます。また、隣の人との距離が近くなると、飛沫を浴びやすくなります。

 やはり「三密の回避」は新型コロナ感染防止の核となる対策ですので、会議などを対面で行わねばならないときは常に念頭に置くようにしてください。

・空気の流れを考慮した部屋の換気の徹底

 「三密の回避」の一環ではありますが、具体的な方法として換気を十分に行うことが大事です。室内の空気が淀むと、ウイルスを含む飛沫や小粒子の濃度が上がり、それらを吸い込んだ際のウイルス量が多くなるため感染のリスクは高まります。一方、換気を十分に行えば、ウイルスを含む飛沫や小粒子が漂ったとしても、濃度が薄まるために吸い込んだ際の感染リスクは相対的に低くなるのです。

 外に通じる窓がない場合は、部屋のドアを開放し、扇風機などを利用して空気の流れを作り、室内の空気が淀まないように工夫しましょう。

 

 他にも具体的な対策として、仙台市のホームページに紹介されていますので参考にしてください(図2)。

 なお、「変異株は感染力が強い」と言われていますが、鼻やノドの細胞に付着しやすいということであり、マスクをすり抜けやすい、というわけではありません。従って、上記の対策をしっかり行っていれば、怖いものではありません

図2.せんだい生活スタイル (仙台市HPより)

 

4.ワクチン

 新型コロナを押さえこむために、人の出入りを厳しく抑える都市のロックダウンを政策として取り入れた国もありましたが、日本ではそれよりは緩い「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」と称する人流抑制が図られました。しかし、一定の成果はみられたものの、いまだに新型コロナを押さえこめていません。一方で、新たに開発された新型コロナウイルスに対するワクチンの接種が海外で先行し、その有効性が報告されてきました。

 日本でも医療従事者や高齢者等に対する優先接種が始まり、今後は対象年代を下げて広く接種が進められることになります。

 このところ新型コロナウイルスの変異株(イギリス株・南アフリカ株から始まり、最近はインド [デルタ] 株)が次々と出現して話題になっていますが、ファイザー社製・モデルナ社製いずれのワクチンも「変異株に対しても有効」と報告されています5)。イギリスなどで変異株(デルタ株)による感染者の再増加が話題になっていますが、それら感染者の大多数はワクチンを2回接種していない若者たちのようです6)。総合的に考えれば、やはり新型コロナの収束のためには、国民の多く(約70%)がワクチンを2回接種する必要がありそうです7)

 「ワクチン」と聞いて多くの方が心配するのは、その副反応だと思います。実際にインフルエンザワクチンなどよりも副反応が出やすいのは事実です。副反応として頻度の高いものは以下の通り。

・接種部位の痛み、(は)れ、発赤

・発熱

・全身倦怠(けんたい)感

・頭痛、 など

これらの発現には個人差があり、年齢差や男女差も見られます。症状の程度も個人差がありますが、通常は2~3日で自然に改善します(症状のひどい場合は医療機関を受診して解熱鎮痛薬などを処方してもらってください)。ただし、症状が強いために業務に支障を来す可能性もありますので、接種翌日は勤務(通学)を休んでも大丈夫な体制を作っておくべきでしょう。職場内で接種日をずらすなど工夫するとよいでしょう。ワクチンに関するウェブサイト8)も参考にしてください。

副反応は女性の方が強く出るようです。ワクチンの中心部分(RNAという)を包む膜の一部(ポリエチレングリコールという)は化粧品やシャンプーなどにも含まれており、それらを頻回に使う女性の方がワクチンの膜成分に敏感になりやすいので副反応が出やすいと言われています9)

また、急性のアレルギー症状として「アナフィラキシー」が知られていますが、実際の発症例は少数であり、アナフィラキシーとして報告された事例には「迷走(めいそう)神経反射」や持病の「てんかん」の発作などが誤ってカウントされているようです。「迷走神経反射」とは、ストレスや強い疼痛などにより自律神経のひとつである迷走神経を介して脳が刺激され、心拍数の低下や血管拡張による血圧低下などをきたす生理的反応のことです。サッカーファミリーの皆さんの中にも、骨折した時そのあまりの痛さに意識を失いそうになる経験をした方もいるのではないでしょうか。それが迷走神経反射です。

いずれにしても、新型コロナウイルスに対するワクチンは、副反応は出やすいものの軽微で改善することが多く、その有効性を考えれば積極的に接種を受けるべきだと考えます。もちろん、以前、食物アレルギーやインフルエンザワクチンでアナフィラキシーになったことがあるとか、自己免疫疾患の持病のある方などは慎重にならざるを得ませんが、「副反応が怖いから」という理由でワクチン接種を受けないのは得策とは言えません。

 現在、国内各地へのワクチン供給が滞っているため、皆さんへの接種時期がいつになるかは分かりませんが、順番がまわってきましたら、是非接種をお願いします。

 

5.新型コロナ感染対策としてのフェアプレー

 上記の新型コロナウイルスの感染経路(飛沫・空気感染>接触感染)をもう一度思い出してください。

 さて、マスクをしたままサッカーはできませんね。サッカープレー中は飛沫をまき散らしていると考えてください。屋外であっても、相手との距離や風向きにより、周りの選手に飛沫をかけてしまっているかもしれません。もし、あなたが無症状の感染者だとして、試合中に相手にファウルを受けて倒れた時、相手選手を罵倒したり、審判に大声で文句を言ったりしたらどうでしょうか?ウイルスを含んだ飛沫を相手に向かって飛ばしていることになります。お互いにマスクをしていない時の感染の確率は格段に高くなりますから、たいへん危険です。

 サッカーファミリーの皆さんには、このようなサッカーのプレー中に感染を広げることがないように、試合中は他の選手や審判とは近い位置で話すことを控えるなどフェアプレーを心掛けていただき、当分は大声を出さないでプレーするようお願い致します。

 

宮城県サッカー協会医学委員長 島村弘宗

 

以下に執筆の参考にした資料(数字は本文中の右肩の数字)を挙げておきます。興味のある方は是非参考にしていただき、新型コロナに対する知識を深めてください(手ごわい英文論文もありますが…)。

1)https://www.nature.com/articles/d41586-021-00251-4

2)https://www.wired.com/story/the-teeny-tiny-scientific-screwup-that-helped-covid-kill/

3)https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(20)30561-2/fulltext

4)https://junseikei.jp/director/%E4%B8%8D%E7%B9%94%E5%B8%83%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%A8%E5%B8%83%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%A8%E3%81%A9%E3%81%A3%E3%81%A1%E3%81%8C%E5%AE%89%E5%85%A8%EF%BC%9F/

5)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2104974

https://www.theguardian.com/world/2021/may/22/pfizer-and-astrazeneca-highly-effective-against-india-covid-variant

6)https://www.news24.jp/articles/2021/06/24/07895295.html

7)https://jp.reuters.com/article/analysis-coronavirus-immunity-idJPKBN27Z0KG

8)https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210120-00217893/?fbclid=IwAR2whgFc6UwYdTcj2CzA-qjgqIeqG9h1U5V-2YPPMs2bZDVSsj9ID5Jsnmo

9)https://www.sciencemag.org/news/2020/12/suspicions-grow-nanoparticles-pfizer-s-covid-19-vaccine-trigger-rare-allergic-reactions